胸鎖関節脱臼

胸鎖関節脱臼(きょうさかんせつだっきゅう)

①胸鎖関節とは

 胸鎖関節は,鎖骨近位端(さこつきんいたん=上図でいうと鎖骨の右端の部分)が胸骨と接する部分です。この部分の間接が外れる場合が胸鎖関節脱臼になります。
胸鎖関節は,先に説明した肩鎖関節(けんさかんせつ)の反対に位置しています。

 胸鎖関節脱臼は,衝突や墜落などで肩や腕が後ろ方向に引っ張られた際に,鎖骨近位端が第1肋骨を支点として前方に脱臼すると言われています。
分類すると,前方に脱臼するのが胸鎖関節前方脱臼といいます。これに対して,前方から強い力がかかって鎖骨近位端がへこむ形で脱臼や骨折が生じることがありますが,これが胸鎖関節後方脱臼または後方骨折になります。
大部分が胸鎖関節前方脱臼の場合です。

 胸鎖関節の周辺は靭帯がしっかりしており,脱臼しにくくなっています。
ただ,交通事故などで非常に強い力が加われば脱臼します。

 完全脱臼で,関節から肩の関節面が完全に外れた状態になった場合は手術となりますが,そのほかは保存療法で治療します。

胸鎖関節脱臼における後遺障害

① 予想される等級

 まず,体幹骨の変形として12級5号(12級5号=5,鎖骨,胸骨,ろく骨,けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの)の認定が予想されます。
可動域制限が生じた場合は,やはり肩関節の機能障害になり,10級10号または12級6号の認定が予想されます。

  • 10級10号=1上肢の 3 大関節中の 1 関節の機能に著しい障害を残すもの
  • 12級6号=1上肢の 3 大関節中の 1 関節の機能に障害を残すもの

可動域制限の程度と等級の関係については鎖骨骨折の記事を参考にしてください。

② 事例紹介

 胸鎖関節脱臼は,先ほど紹介したとおりかなり強い力が加わらない限り発生しないので取り扱い事例がありません。
ただ,いつも相談会を開いたり,勉強会を一緒に行っている事務所から次のような事例を紹介されたことがあるので参考にしてください。

◎事例

 大型バイクでツーリング中の事だったそうです。
山間部左カーブ地点でセンターラインオーバーの対向車との衝突を避けるため右に急ハンドルを切りました。
そうしたところ,崖下に落下。崖下に転落した際に,立木に右肩部を強打しました。
診断の結果,右胸鎖関節前方脱臼,第1肋骨骨折と診断書に記載されました。
クラビクルバンドで固定したそうです。(クラビクルバンドについては「鎖骨骨折」の記事を参照ください。)

 上記事例の被害者の方は,受傷2か月目での外転運動は85°で,健側(正常な左側)の2分の1以下だったそうです。
このままであれば,通常の基準で10級10号に相当するものになります。
しかし,4か月間のリハビリ治療で外転120°まで改善しました。
さらにリハビリを続けると180°までならずとも,135°以上は確実です。

 135°以上なら機能障害については後遺障害にならず非該当になります。

 当初肩関節から最も離れた部分の脱臼でどうして肩関節に機能障害を残すのか疑問を感じていたそうです。
そこで,右鎖骨全体の3DCTスキャンを実施し,右鎖骨の走行に変化が生じていることを立証できたそうです。
言われて見れば,鎖骨の走行に変化が生じていれば,肩関節に機能障害を来しても不思議ではありません。
肩関節は,上腕骨頭(じょうわんこっとう=腕の骨)が肩甲関節(けんこうかんせつ)に遠慮がちに寄り添う構造です。
肩甲骨は,鎖骨にぶら下がっている形状で,胸郭(きょうかく)=肋骨(ろっこつ)の一部にのっています。
つまり,肩鎖関節と胸鎖関節,肩甲骨の胸郭付着部は3本の脚立の脚となっているのです。
胸鎖関節の脱臼により脚立の脚が1本ぐらついたのです。
そのため胸鎖関節から最も遠い位置の肩関節に機能障害が発生したということが判明したそうです。

 「肩鎖関節脱臼」の記事でもお話ししましたが,鎖骨の突出は「体幹骨の変形」として12級5号が認定されます。
右鎖骨近位端の変形はやはり鎖骨が突出するという特徴があります。

胸鎖関節脱臼で鎖骨が突出するのは,○印の部分です。

 上記事例の方は,受傷4か月目では突出もあまり目立たなくなっていました。
圧痛も以前よりは改善に向かっています。
その方は体型が太り気味でした。体型が太り気味だともともと鎖骨が目立たず,当然胸鎖関節脱臼で鎖骨が突出していたとしても脂肪が多いためわかりません。
そこで,ダイエットに専念してもらい体重を2か月で10キロおとしてもらい突出を浮き上がらせることができたそうです。

 結論ですが,変形による12級5号と肩関節の機能障害による12級6号の併合11級の認定が出たそうです。

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