高次脳機能障害認定の3要件

高次脳機能障害認定の3要件 ①

 頭部外傷を伴う交通事故では,脳に重篤な後遺障害が残る可能性があります。
 たとえば,「性格が変わってしまった」「匂いを感じなくなってしまった」「味覚が鈍ってしまった」等です。
 これらを「高次脳機能障害」といいます。
 高次脳機能障害として後遺障害が認定されるためには以下の3つの要件をクリアする必要があります。

  1. 頭部外傷後の意識障害,もしくは健忘症あるいは軽度意識障害が存在すること
  2. 頭部外傷を示す以下の傷病名が診断されていること
  3. 上記の傷病名が,画像で確認できること

 今回は,上記1についてお話しをさせていただきたいと思います。

頭部外傷後の意識障害,もしくは健忘症あるいは軽度意識障害が存在すること

 高次脳機能障害を伴う交通事故では,地面等に頭部を強く打ちつけて受傷することがほとんどです。
 頭部を打ちつけるのですから,程度が強いほど被害者の意識状態にも影響が出ます。
 これを「意識障害」といいます。
 意識障害については,一定の段階に分けて程度を判断しています。これを「JCS」と言います。

 下記の表を参照ください。「意識レベル」とも言います。
 医療ドラマ等でよく出るセリフなので,医療ドラマをよく見るという方は比較的想像しやすいかと思います。

意識障害 JCS
Ⅰ 覚醒している
(1桁の点数で表現)
0 意識清明
1(Ⅰ-1)見当識は保たれているが意識清明ではない
2(Ⅰ-2)見当識障害がある
3(Ⅰ-3)自分の名前・生年月日が言えない
Ⅱ 刺激に応じて一時的に覚醒する
(2桁の点数で表現)
10(Ⅱ-1)普通の呼びかけで開眼
20(Ⅱ-2)大声で呼びかける,強く揺するなどで開眼
30(Ⅱ-3)痛刺激を加えつつ,呼びかけを続けると辛うじて開眼
Ⅲ 刺激しても覚醒しない
(3桁の点数で表現)
100(Ⅲ-1)痛みに対し払いのけるなどの動作をする
200(Ⅲ-2)痛刺激で手足を動かす,顔をしかめたりする
300(Ⅲ-3)痛刺激に対して全く反応しない

この他,R(不穏)I(糞便失禁)A(自発性喪失)などの付加情報をつけて,JCS200-Iなどと表します。

乳幼児意識レベルレベルの点数評価 JCS
Ⅰ 刺激しないでも覚醒している
(1桁の点数で表現)
0 意識清明
1 あやすと笑う。ただし不十分で声を出して笑わない
2 あやしても笑わないが視線は合う
3 母親と視線が合わない
Ⅱ 刺激すると覚醒する
(2桁の点数で表現)
10 飲み物を見せると飲もうとする,或いは乳首を見せればほしがって吸う
20 呼びかけると開眼して目を向ける
30 呼びかけを繰り返すと辛うじて開眼する
Ⅲ 刺激しても覚醒しない
(3桁の点数で表現)
100 痛刺激に対し,払いのけるような動作をする
200 痛刺激で少し手足を動かす,顔をしかめたりする
300 痛刺激に対して全く反応しない

GCS
En+Vn+Mn=合計n点と表現
正常は15点満点,深昏睡は3点、点数は小さいほど重症
開眼機能 E
(Eye opening)
4 自発的に,または普通の呼びかけで開眼
3 強く呼びかけると開眼
2 痛刺激で開眼
1 痛刺激でも開眼しない
言語機能 V
(Verbal response)
5 見当識が保たれている
4 会話は成立するが見当識派が混乱
3 発語は見られるが会話は成立しない
2 意味のない発声
1 発語みられず
運動機能 M
(Motor response)
6 命令に従って四肢を動かす
5 痛刺激に対して手で払いのける
4 指への痛刺激に対して四肢を引っ込める
3 痛刺激に対して緩徐な屈曲運動
2 痛刺激に対して緩徐な伸展運動
1 運動みられず

PTA
外傷性健忘について
重傷度 PTAの持続
わずかな脳振盪 0~15分
軽度の脳振盪 1.5~1時間
中程度の脳振盪 1~24時間
重度の脳振盪 1~7日間
非常に重度な脳振盪 7日間以上

JCSは2桁が重度な意識障害で,GCSは点数が低いほど重度な意識障害と憶えてください。

高次脳機能障害における後遺障害

① 入口部分の3つの要件の中では、意識障害所見が最も重要となります

 つまり,意識障害のレベルが認定等級に直結しているのです。
 脳神経外科医は,MRIで脳にダメージを受けているという所見が得られなくても,意識障害のレベルで,それらの傷病の存在を推定し,診断しています。
 半昏睡~昏睡状態が6時間以上継続していれば,立証上はなんの問題もありませんが,外傷後健忘(事故後の記憶がないこと)や軽度の意識障害の場合,担当医が入院中の被害者をつぶさに検証して,その詳細を把握することは現実問題として困難です。
 なぜならば,治療の必要がないからです。
 実態に反して,3~4日で意識清明とされれば,この後なんと具体的に症状を立証しても,高次脳機能障害は入口段階で否定されることになります。

② どのように立証していくか

 ご家族に対しては,受傷から6時間,1週間の意識障害の経過を詳細に確認,それを申述書として文書化し,主治医には申述書を提示して意識障害の記載を依頼します。
 ご家族に依頼する理由は,被害者の性格等を一番把握しているので,事故後の変化を細かく感じ取れるからです。
 すでに,間違った所見の記載がなされているときは申述書を示して,訂正をお願いします。
 この場合の訂正とは,新たな所見の記載を意味します。
 弊所と連携しているメディカルコーディネーターの経験則なのですが,入院期間中であれば修正は比較的容易です。
 主治医の理解を得るには,外傷性健忘(事故前の記憶が抜け落ちた)のエピソードを具体的に説明することです(自分や家族の名前が思い出せない等)
 この立証は苦労が伴います。

③ 想定される4つのパターン

  意識障害
(要件1)
傷病名
(要件2)
画像所見
(要件3)
高次脳機能障害としての後遺障害の認定

1であれば,高次脳機能障害の立証に苦労はありません。
2でもなんとか立証に漕ぎ着けます。
3となれば高次脳機能障害の認定は極めて困難となります。
4は高次脳機能障害として審査されることはなく,非該当認定です。

なお,軽度脳損傷、MTBI(軽度外傷性脳損傷)は4に該当し,高次脳機能障害として評価されていません。

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