神経心理学的検査メニューの決定方法

 前回まで,高次脳機能障害が認定されるための3要件(意識障害,傷病名,画像所見)についてくわしく説明してきましたが,これらすべてが立証されたとしても,高次脳機能障害が認定されるわけではありません。
具体的に被害者がどのような後遺障害を負い(日常生活における支障),その後遺障害を神経心理学的検査によって医学的に立証する必要があります。
以下,日常生活における具体的な支障ごとに,観察方法を説明します。

1 日常生活における具体的な支障の観察方法

① 遂行障害・失語

  • □ 被害者の話し方を観察すること
  • 運動性失語では,左前頭葉のブローカ領域の損傷→流暢性の喪失
  • 感覚性失語では,左側頭葉のウェルニッケ領域の損傷→空疎な発言
  • □ 被害者の態度を観察すること
  • 易怒性,易疲労性,集中力の欠如,幼児退行
  • □ 家族から日常生活でのエピソードを聴き取り,ギャップを抽出する
  • 病識の欠如

② 記憶障害

  • □ 昨夜の夕食,今朝の朝食,いつ,どこで,何を食べたかを確認すること
  • 逆向性健忘あるいは前向性健忘
  • □ カップラーメンにお湯を入れてそのままにした経験がないか
  • ワーキングメモリーの喪失
  • □ 家族全員の名前,主治医の先生の名前,自宅のペットの名前が言えるか否か
  • 固有名詞失名辞
  • □ 病院への通院日や外出する日を約束しても,単に忘れていたのではなく,約束自体を覚えていない経験がないか
  • 言語・聴覚にまつわる記憶障害
  • □ 近隣で迷子になったことがないか
  • 地誌的障害

③ 視覚認知機能・失認・失行

  • □ 歩いていてよく左肩をぶつけることがないか
  • □ 食卓に並んだいくつかのおかずの皿から右半分しか箸をつけないことがあるか
  • □ 片側から話しかけられても反応しない。又は,片側に人が立っていても存在に気づかないことがないか
  • □ 家の絵を描かせると片側半分だけしか描かないかどうか
  • 半側空間無視
  • □ 右手を出してと言われて左手を出すなどよく左右を間違えないか
  • 左右失認,空間認識能力の低下
  • □ 主治医の顔,もしくは新しく出会った人の顔を覚えられないことがあるか
  • 相貌失認
  • □ 箸やスプーン,歯ブラシが使えなくなっていないか
  • □ 事故前,よく使っていた電気器具の使用法を忘れてしまっていることはないか
  • 失行

④ 注意・遂行機能障害

  • □ 仕事を始めても,すぐボーッとしてしまい集中力がもたないことがないか
  • □ お皿を洗っている途中,気がつくとテレビを観ていることがないか
  • □ 窓の掃除をすると,ずっと同じところを拭いていることはないか
  • 注意障害,集中力が極端に低下,脈絡のない行動,会話まとまりがない,話が飛びがち,同時にいくつかの作業を進めることができない,一つのことに固執
  • □ 旅行の計画はおろか,スケジュールを立てることができないことはないか
  • □ 買い物の段取りが悪く,売り場を行ったり来たりして,何倍も時間がかかることはないか
  • □ コピーを取ってFAXをする,その間に電話をするなど,同時並行で複数の作業ができないことはないか
  • □ 家族に促されないと病院に行かない,薬を飲まないことはないか
  • 物事を計画する,効率よく処理する,最後までやり遂げることができない,同時に2つの作業を進めることができない,自発性の低下

⑤ 情動障害人格変化

  • □ 些細なことでキレることないか
  • □ 幼児に返ったような行動をし,発言が子供っぽくなったことはないか
  • □ 人前でも平気で着替えを始めてしまうことはないか
  • □ 好きなお菓子ばかりを食べ続け,他の食べ物には見向きもしないことはないか
  • 易怒性,幼児退行,羞恥心の低下,感情失禁,脱抑制,固執性,感情を理性で抑えることができない
  • □ 毎週のようにゴルフをしていたのに,家にあるゴルフクラブに見向きもしなくなったことはないか
  • □ 猫好きで何匹も飼っていたのに,全く世話をしなくなったことはないか
  • □ 明るくよくしゃべる人だったのに,無口で暗くなったことはないか
  • □ 「誰かが私の財布を隠した。」 など,被害妄想があることはないか
  • □ 掃除,片づけをまったくしなくなり,部屋が散らかり放題ということはないか
  • □ ずぼらだった性格が几帳面になり,神経質に掃除をするようになったことはないか
  • □ いつも疲れていて家でゴロゴロし,居眠りが多い。突然寝落ちすることはないか
  • 性格変化、易疲労性

⑥ 味覚・嗅覚・めまい・ふらつき

  • □ 味がついているのに,大量に醤油をかけて食べることはないか
  • □ 事故後,苦手で食べられなかった魚介類が食べられるようになったことはないか
  • □ 足元にガソリンがこぼれているのに,煙草を吸おうとしてライターを取り出すことはないか
  • □ 腐った果物を平気で食べることはないか
  • □ まっすぐ歩けず,蛇行していることはないか
  • □ めまいを訴える。なんでもないところで転倒することはないか
  • □ 頭痛に悩まされていることはないか
  • 脳幹出血=運動機能の障害 小脳の損傷=平衡感覚の喪失,運動神経の低下

⑦ 麻痺

  • □ 車椅子,杖,装具の使用状況はどうか
  • □ 片側の足や手をよくぶつける,片側の腕や足にキズ・痣が絶えないことはないか
  • □ 火傷をする,お風呂に入る際,手や足の左右で感じる温度が違うことはないか
  • □ 自力で排便・排尿ができない,尿漏れや逆に尿がでないことはないか
  • 排泄やED障害について

2 神経心理学的検査メニューについて

 先の観察結果をもとに,以下の28項目ある神経心理学的検査の中から最適な組み合わせを考え主治医にそれらの検査の実施をお願いしています。

  1. ミニメンタルステート検査、MMSE
  2. 長谷川式簡易痴呆スケール HDS-R
  3. ウェクスラー成人知能検査 (WAIS-R) 
  4. コース立方体組み合わせテスト、Kohs
  5. ウィスコンシン・カード・ソーティングテスト WCST
  6. Tinker Toy Test
  7. WAB失語症検査
  8. 標準失語症検査(SLTA)
  9. 老研版失語症鑑別診断検査
  10. レーブン色彩マトリックス検査 RCPM
  11. 日本版ウェクスラー記憶検査 WMS-R
  12. リパーミード行動記憶検査 RBMT
  13. 三宅式記銘力検査
  14. ベントン視覚記銘検査
  15. レイ複雑図形再生課題 ROCFT
  16. 街並失認・道順失認・地誌的記憶障害検査
  17. 抹消検査、模写検査
  18. 行動性無視検査 BIT
  19. 標準高次視知覚検査
  20. トレイル・メイキング・テスト TMT
  21. パサート PASAT(Paced Auditory Serial Addition Task)
  22. 注意機能スクリーニング検査 D-CAT
  23. 標準注意検査法・標準意欲評価法 CAT・CAS
  24. BADS(Behavioral Assessment of the Dysexecutive Syndrome)
  25. 100-7等の数唱
  26. ミネソタ多面人格目録 MMPI
  27. 不安測定検査 CAT
  28. ロールシャッハテスト

 高次脳機能障害のリハビリに取り組んでいる指定病院であってもメニューを示して,丁寧に検査をお願いしない限り,以下の基本的な検査が実施されるのみです。

  1. ミニメンタルステート検査 MMSE
  2. 長谷川式簡易痴呆スケール HDS-R
  3. ウェクスラー成人知能検査 WAIS-R

 これでは,被害者の最も問題とされる障害を浮き立たせることはできません。
 5級2号が然るべきであっても,7級4号や9級10号の認定となってしまうのです。
次に重要なことは,治療先の選択です。
 主たる治療先に言語聴覚士もおらず,神経心理学的検査が実施できないこともあります。
そんなときでも同一県内には,高次脳機能障害に特化した総合病院があります。
 弊所は医療コーディネーターとともに地域密着型の活動を展開しており,立証のできる治療先を確保しています。
 同一県内で立証先を確保し,元の治療先から紹介状を得て検査を受けることが,原則中の原則です。

3 最終段階における立証

 最終段階では後遺障害診断書と神経系統の障害に関する医学的意見,そして,日常生活状況報告のドラフトの作成をする作業です。
 完成したドラフトは,主治医のところに持ち込み,打ち合わせを行いながら記載をお願いします。
 日常生活状況報告では,検査結果と聴き取りの内容から,問題点を以下の4つにまとめます。

  1. 意思疎通能力
  2. 問題解決能力
  3. 持続力・持久力
  4. 社会行動能力

 それぞれに具体的なエピソードを入れ,箇条書きではなく,大袈裟な表現でもなく,読んで頭に染み入るような内容に仕上げなければなりません。
 これで,高次脳機能障害の立証は全て完了しました。
等級認定後は介護料の請求や自宅の改造等で,弁護士が緻密な立証を行うことになります。
 高次脳機能障害では,多くが訴訟提起による決着となります。
ですから,裁判官をうならせる立証が必要なのであって,弁護士なら誰でもOKではありません。
高次脳機能障害の立証は,弊所にお任せください。

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