外傷性の胃の破裂

さて、交通事故では、バイクの運転者が転倒・衝突する、車やバイクに歩行者がはね飛ばされ、
腹部を強打、腹部をひかれて、また衝撃によって内腔の圧力が急上昇し、
胃が破裂することがあります。

ネットでは、3例が報告されており、掲載しておきます。

①24歳の男性、交通外傷、肺と胃の破裂例.
2回の手術後もショックから離脱できず ACS(※1)から心停止、
心肺蘇生による胃縫合部破綻を生じたが、緊急開腹減圧術で救命しえた.。

蘇生後のショックを伴う重症腹膜炎のため、胃破裂部再縫合や切除再建は困難と判断、
DC(※2)を採用し、腹腔ドレナージによる一時閉腹を行い、ICUで代謝失調補正後、
再手術で閉腹を行った。

重症腹膜炎ショック例では、ACSは致死因子として念頭におくべきで、
膀胱内圧、呼吸循環動態、尿量変化に注目、ACSと判断したときは、
DCの概念に基づく躊躇ない緊急開腹減圧が必要となる。

※1 ACS 急性冠症候群
ACSは、心筋に酸素と栄養を供給している冠動脈に形成された動脈硬化性の
脂質の塊が突然に破裂し、血栓が形成され、冠動脈の血流が減少あるいは途絶して起こります。
臨床的には不安定狭心症、急性心筋梗塞、心臓突然死などを指しています。

※2 DC ダメージコントロール
重傷外傷で、代謝性アシドーシス、血液凝固障害、低体温の3徴が切迫したときは、
大規模な根治的手術の侵襲を続けると、外傷死が予想されることになります。

こんなときは、呼吸と循環に関わる治療を最優先とし、それ以外は、全身状態が良くなってから、
2期的に再手術とすることがあります。

初回手術は、ダメージコントロール術として、開胸・開腹術では、
ガーゼ圧迫留置や単純結紮など止血と、汚染の回避に徹した簡易術式が選択されています。

②症例は52歳の男性、左胸部を角材にて打撲、左第7肋骨々折にて入院中に受傷後4時間を経過して
吐血を生じ、内視鏡により胃粘膜裂傷と診断され緊急手術となった。

鈍的外傷では、胃損傷は稀なため、胃は検索を忘れがちな臓器であるが、
急激に発症する例もあるため慎重に対処する必要がある。

本例は、鈍的外傷による胃粘膜裂傷例として本邦文献報告例では3例目にあたり、
吐血を初発症状とした最初のものである。

 

③患者は64 歳の男性、交通事故による腹部打撲と吐血を主訴に救急搬送された。
腹部CTでFree Air(※3)、腹腔内出血を認めたため、胃破裂疑いで緊急手術となった。
手術所見は胃前壁の体下部から幽門前庭にかけて約7cmの破裂創と胃角部小彎に出血性潰瘍を認め、
また、上腸間膜静脈右縁にて膵の完全断裂を認めた。

出血は胃潰瘍によるものと判断した。
止血のために胃切除施行し膵温存のため、膵尾側の膵胃吻合を施行した。
急性期の経過は順調であったが、軽度の膵液瘻を認めた。
退院6カ月経過後でも血糖値、膵外分泌機能には異常を認めなかった。
自験例と文献的考察から消化管破裂や大量出血を合併した症例では、膵温存術式として
膵胃吻合は適した再建法であると考えられた。

※3 Free Air
胃や腸に穴が開き、そのガスがお腹の中に漏れたときは、胃以外の部分、
肝臓の上あたりの本来は空気がないはずの部位に空気が写るのですが、
これをfree airと呼んでいます。

胃の破裂における後遺障害のポイント

1)交通事故で、胃の噴門部or幽門部を含む一部が摘出されたものは、13級11号が認定されます。
画像により、摘出を立証します。

2)胃の全部を摘出したもの、
胃の噴門部、もしくは幽門部を含む一部が摘出され、消化吸収障害、
ダンピング症候群、逆流性食道炎のいずれかが認められるものは、11級10号が認定されます。
摘出は画像で、その他は、5)6)7)を参照してください。

3)胃の全部を摘出し、ダンピング症候群、または逆流性食道炎を認めるもの、
胃の噴門部、または幽門部を含む一部が摘出され、消化吸収障害およびダンピング症候群、
または、逆流性食道炎を認めるものは、9級11号が認定されます。
摘出は画像で、その他は、5)6)7)を参照してください。

4)胃の全部が摘出され、ダンピング症候群と逆流性食道炎を認めるときは、
7級5号が認定されます。

摘出は画像で、その他は、6)7)を参照してください。

5)ビタミンB、鉄分、カルシウムを除く、消化吸収障害
胃の全摘により、消化吸収障害が生じるのは、以下の2つを原因としています。
①胃酸・ペプシンの欠如、または不足により、消化不能のまま食餌が腸管に移動すること、
②噴門や幽門機能を喪失することで、未消化のままの食餌が腸管に移動すること、

多くの被害者は、体重減少、食欲不振、下痢、腹鳴などを訴えます。
消化吸収障害は、脂肪、蛋白質、炭水化物の順で障害され、臨床所見あるいは
自覚症状として現れないときでも、胃の全摘では、生体に与える影響は大きいのです。

消化吸収障害が認められるには、以下の2つの要件を満たさなければなりません。
①胃の全部、または噴門部、もしくは幽門部を含む一部が切除されていること、
②低体重などを認めること

低体重等とは、BMIが20以下のものをいい、術前と比較して10%以上減少したものを含みます。

※BMI
体重と身長から、人の肥満度を示す体格指数で、体重÷(身長)2で求めます。
BMI指数は、22が標準値であり、最も病気になり難い状態と言われています。
BMIが25以上では、肥満と判定され、生活習慣病を引き起こす可能性が懸念されます。

6)ダンピング症候群
早期ダンピング症候群は、食事中や食後30分以内に、血管運動失調性の症状を
伴う腹部症状として発症しており、具体的には、冷汗、動悸、めまい、失神、
全身倦怠感、顔面紅潮、頭重感などの全身症状と腹鳴、腹痛、下痢、悪心、
腹部膨満感などが列挙されます。

また、晩期ダンピング症候群は、食事摂取後2~3時間で発症するもので、
冷汗、全身脱力感、倦怠感、気力喪失、めまい、時に失神、痙攣などの低血糖症状を呈しています。

2つのダンピング症候群に対する治療は、食事指導を主体とした保存的治療であり、
食事内容を変更するとともに、1回の量を少なく、回数を増やすこと、
食後しばらくは、横臥にて安静とすることなどが指導されています。

症状が残存していても、労働能力に与える支障の程度は、比較的軽度なものですが、
ダンピング症候群が認められるには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

①幽門部を含めて胃の切除がなされていること、
②2つのダンピング症候群の、いずれかの症状を呈することが医師の所見により認められること

7)逆流性食道炎
逆流性食道炎は、胃液あるいは腸液が食道内に逆流するために生ずるもので、
胃の噴門部は損傷していないが、胃酸の分泌が多いことなどにより逆流を生じるものと、
噴門部を手術により失ったときに生じるもの=術後逆流性食道炎の2種類があります。
後遺障害の対象は、当然ながら、術後逆流性食道炎となります。

逆流性食道炎の症状としては、胸やけ、胸痛、嚥下困難、吐き気、または食欲不振等が生じます。
横臥すると逆流が起こりやすく、夜間に症状が出現して睡眠が妨げられることがあります。
保存的療法、殊に対症療法として薬剤の投与は継続的に必要とされますが、
通常、手術等の積極的治療は、行われていません。

逆流性食道炎が認められるには、以下の2つの要件を満たさなければなりません。
①本人に、胸焼け、胸痛、嚥下困難などの術後逆流性食道炎に起因する自覚症状があること、
②内視鏡検査で、食道にただれ、びらん、潰瘍等逆流性食道炎に起因する所見が認められること。

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