腹膜・腸間膜の障害

腹膜とは、腹腔内を覆う膜であり、腹腔内は、無菌に保たれています。
この腹膜に、細菌感染や物理的刺激によって炎症が起こるものを腹膜炎といいます。

腹膜は、表面を覆うだけのもの、全体を包み込むものに分かれ、
この中で腹膜が表面を被いながら反転して二重膜となるものがあり、これを間膜と呼んでいます。

腸間膜は、小腸と大腸に付着しており、腸間膜動脈を通じて栄養を受けています。

交通事故外傷では、外傷性穿孔、消化管穿孔による胃液、胆汁などの腹膜への漏出などの
合併症として、急性腹膜炎を発症しています。

医原性のものでは、オペ中の穿孔、縫合不全、手術後腹膜炎などでも、発症しています。
急性腹膜炎では、通常は急激な腹痛が突発的に起こります。
痛みは持続し、初めは限られた部位だけですが、次第に腹部全体に拡大します。
そのほかの症状として、吐き気・嘔吐、発熱、頻脈を伴うことがあります。
腹膜炎が進行すると、脱水・ショック状態に陥ることもあります。

医師の診察により、圧痛、筋性防御、ブルンベルグ徴候、腸雑音の有無を調べます。
筋性防御は壁側腹膜の炎症を示唆する所見であり、急性腹膜炎の診断に有用です。
初期では軽い触診で腹壁の筋肉の緊張として触知されますが、病状が進行すると腹筋は硬く緊張し、
腹壁反射は消えて板状硬と呼ばれる状態になります。

ブルンベルグ徴候は、腹部を圧迫した手を急に離すことで周囲に痛みが響く所見のことをいい、
腹膜炎にみられる所見で、腸雑音は腸管の麻痺のために低下します。

血液検査では、白血球が増加し、炎症反応を示すCRPが陽性になります。
画像検査では、腹部レントゲン、腹部超音波、腹部CTが有効です。

とくに、消化管穿孔では、腹部レントゲンで横隔膜下の空気遊離像=フリーエアーが診断の
決め手になり、また、急性胆嚢や膵臓など、実質臓器の外傷では、腹部超音波、
腹部CTが有用です。

消化管の穿孔がない、限局性腹膜炎では、補液、抗生剤の投与により保存的な治療で
改善が得られることもありますが、大多数は、早期の緊急手術が必要となります。

腹膜・腸間膜の外傷における後遺障害のポイント

1)交通事故外傷により、腹膜炎を合併しても、治療を完了すれば、
腹膜や腸間膜に後遺障害が生じることはありません。

2)しかし、腹膜、腸間膜が損傷された結果、腹部臓器の機能に影響が生じることがあります。
腸間膜動脈の損傷により、腸管が壊死したときは、腸管切除術が選択されています。

①外傷により小腸が切除され、残存空・回腸の長さが75㎝以下となったものの、
経口的な栄養管理が可能なものは、9級11号が認定されています。

②外傷により小腸が切除され、残存空・回腸の長さが、75㎝以上、100㎝以下で、
経口的な栄養管理は可能であるが、消化吸収障害が認められるものは9級11号が認定されています。

残存空・回腸の長さが75㎝以上のときは、消化吸収機能には、個人差が認められており、
残存した部位の長さだけに着目するのではなく、消化吸収障害を検査で立証しなければなりません。

72時間蓄便中脂肪量の直接測定法とd-キシロース吸収試験の2つで立証すれば、完璧です。

③小腸には予備能があり、相当程度の切除を行っても、消化吸収障害をきたすことはありませんが、
残存小腸が75㎝未満では、相当程度の消化吸収障害をきたし、中心静脈栄養法や経腸栄養法が、
常時、必要となることが予想されます。

労災保険では、治療が不可欠であるとして、治癒とは認めていません。
では、自動車保険では、どうでしょうか?

症状固定を先送りにすれば、本件交通事故の解決も、自動的に先送りとなります。
これを保険会社が認めるとも思いませんが、被害者としても、宙ぶらりんでは困るため
示談書に付帯条項を盛り込み、いずれかの時点で、症状固定を決断することになります。

後遺障害等級は、残存した後遺障害の労働能力におよぼす支障の程度を総合的に判定する
こととされており、具体的な認定基準は、定められていません。

無条件で別表Ⅰの1級2号ではなく、個別に、支障を立証していくことになります。

④大腸の大量切除について
大腸を全摘したものは、人工肛門の造設となり、1)の基準で、等級が認定されています。

大腸の全摘ではなく、大腸のほとんど、結腸の全てを摘出したときには、
下痢が予想されるのですが、腸管に流入する水分の大部分は小腸で吸収され、
大腸で吸収される水分は少ないのです。

大腸の大量切除を原因とした下痢の程度は、比較的、軽く、日常、
仕事上の支障も軽度であると考えられています。

大腸のほとんどを切除したとき、または結腸の全てを切除したときは11級10号が認定されます。

3)腸管癒着を残すもの
腸管癒着では、腸管の狭窄、閉塞、絞扼の3つに大別されています。
この内、閉塞、絞扼は、治療が必要であり、症状固定にはなりません。

狭窄とは、閉塞にまでは至らない腸管の通過障害のことですが、小腸に狭窄が認められるときは、
腹痛、腹部膨満感、嘔気、嘔吐などの症状が出現します。

小腸に狭窄があることは、上記の症状が、医師により認められること、レントゲンで
小腸ケルクリング襞像が認められることで認定されています。

1カ月に1回程度腸管の癒着に起因する腸管狭窄の症状が認められるものは、
腸管狭窄を残すものとして11級10号が認定されています。

上記の考え方は、小腸だけでなく大腸に通過障害が生じたときにも適用されています。
参考までに、大腸に狭窄が認められるときは、腹痛や腹部膨満感の症状が出現します。
大腸に狭窄があることは、レントゲンで貯留した大量のガスにより結腸膨起像が相当区間で
認められることで認定されています。

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